The Expanse 巨獣めざめる SFドラマ
The Expanse 巨獣めざめる
ドラマとしては少し難解で、SF好き以外には受け入れられないかもしれない。
重厚なSFドラマと言う謳い文句で紹介されますが、SF好きにとっては、「重厚というより正統派」だった。
センス・オブ・ワンダー世代からのSF好きにとっては、宇宙航行の理論をしっかり固めて、物理学の法則にのっとって時間や舞台の範囲を決めることは一番大事なリアリティだ。SFがSFらしくあるためには、空想でありつつ、科学的であることが重要なのだ。
その点、多くのSFドラマと呼ばれるものの多くはSF的ではない。スタートレック・シリーズなどはSFなのにSF的でない点が数多くある。特に時間軸を移動する話が出てくるとプロットが無茶苦茶になるドラマが多い。別に、アーサー・C・クラークやラリー・ニーヴンのように厳格な科学理論に基づいて描くべきだとは思いませんが、最初にこういう設定ですと自分で書いているのに、後から進行上の都合で設定を変えるのはSF的じゃないのである。
その点、このエクスパンスは最後の方まで何とか設定を破綻させず、如何にもSFらしく、私はかなり気に入っている。
このドラマのSF上の基本設定は、核融合を使った高効率のエンジンによって、人体が耐えうる加速度の限り、燃料を気にせず加速できるという点だ。
ドラマの中では地球と火星の間を数日で飛んでいそうなので、地球と火星間の距離を2億4千万キロ程度とすると(実際にはそのときの地球と火星の位置によって変わる)、
240000000キロ÷(10日×24時間)= 1000000キロ/時 と時速100万キロメートルの平均速度になります。
毎秒、10メートル/秒の加速(約1G、地球の重力程度の加速)で時速100万キロに到達するには27000時間程度、すなわち1000日くらいかかるので、
このドラマの設定にするには重力の100倍程度の加速をしないといけない。
航行時間をもっと多めに見積もるにしても、単に体にチューブをつなぐだけでは耐えられそうにない加速である。さらに、地球と小惑星帯までの航行ならもっと時間がかかるはずで、ドラマの展開は少し性急すぎるだろう。
まあ、そんなケチをつけるより、核融合エンジンという、まあまあ現実的な宇宙航行法を選んでいるのがドラマの骨になっている。リングが出来てからのクライマックスで、未知の物質プロト分子がリングを抜けようとするノーブー号を急減速させたために船内の人がたくさん死ぬシーンも、この加速度の設定がなければ成立しないし、ドラマ中何度も出てくる、宇宙船が進行方向とは逆向きにエンジンを向けているのも、中間点を過ぎると減速し始めないといけない現実の科学に合致している。
このリアリティがあるから、惑星間の対立、地球と火星と小惑星帯を含むその他太陽系内植民地という3つの勢力分布も納得できるし、宇宙艦隊同士の戦闘風景もリアルなものになっている。
かつて、「デューン 砂の惑星」という映画で原作通りに作ったために総スカンを食った映画がありましたが、ま、似たような評価になるでしょう。
あらすじ【ネタばれだらけ】
巨獣は出てきません。
23世紀の地球や火星などが舞台。惑星間の航法が開発され、人類は太陽系内各所に植民している。地球は国連が支配していて、人口は過剰でほとんどの人が無職で配給で暮らしている。早くに植民化された火星は既に独立して、強力な軍事国家になり地球とは対立している。さらに小惑星帯、木星あたりの衛星などに植民地があり、それらは地球や火星の影響下にある。小惑星帯に住む人はベルタ―と呼ばれ独自の組織文化を持っている。
シーズン1
氷運搬船カンタベリーの副船長ジム・ホールデンはナオミ、アレックス、エイモスら乗組員とともにベルタ―の住むケネスに水などの資源を運ぶ途中に、航行不能になったスコピュリ号から救難信号を受信する。その発信者は小惑星ケレスの刑事ジョー・ミラー、
長い髪を片方によせた長髪男が捜索を依頼された巨大企業の社長ジュール=ピエール・マウの家出娘ジュリー・マウだった(すでにネタバレ)。カンタベリー号は救助に向かう最中にステルス宇宙船によって攻撃され本船は破壊される。救助に向かっていたジム・ホールデンはナオミ、アレックス、エイモス達数名の生存者は、火星軍の戦艦に収容されるが、カンタベリー号を攻撃したのと同型のステルス宇宙船から攻撃を受けて、火星軍の戦艦は自爆する。ジム・ホールデンたちはかろうじて火星軍の駆逐艦タチ号で脱出する。この後、ジム・ホールデンたちは、太陽系最大級にして最高度の技術を持つチコ・ステーションでタチ号をロシナンテ号に改名して自分たちの船にする。チコステーションの指導者フレッド・ジョンソンの依頼でジュリー・マウを探しに出たホールデンたちは未知の有機物に覆われたステルス艦を発見して伝染を防止するために破壊する。ジュリー・マウはこの未知の有機体を兵器として輸送しようとしていたステルス艦を妨害しようとしていたのだ。このステルス艦がものすごく威力を発揮するのはこのシーズンだけなのだ。
しかし彼女は任務に失敗し小惑星エロスに逃亡する。ジュリーを追っているホールデンたちと、刑事ジョー・ミラーは小惑星エロスで合流してジュリーを探すが既に未知の分子に包まれて死んでいた。ジュリーの父、マオの企業の研究者がその分子を培養する実験をするが、制御できずエロス全体が未知の分子、プロト分子に汚染される。ホールデンたちはロシナンテ号で何とかエロスを脱出する。ちなみにエロスには何十万人ものベルタ―たちが住んでいたが、全員プロト分子によって死亡する。
この時点で未知の有機物がプロト分子と呼ばれる太陽系外から何十億年も前に飛来した物質だと分かる。ステルス艦の所属は分かりにくいが、地球の国連軍が秘密裏に開発していた宇宙船だと分かる。プロト分子の正体は分からないので、誰が兵器化しようとしているのかは、この時点では不明。しかし、この後も、プロト分子を兵器としてどう利用するのかは不明なままドラマは進行する。多分兵器化するのは無理なのだ。
シーズン2
ドラマでは一番面白かったシーズンです。
まずは、プロト分子に支配されたエロスが軌道をそれて地球へ向かっていく。プロト分子は周りの物質を取り込み、小惑星すら移動させる航法を作り出すのだ。ホールデンたちと、チコステーションのフレッド・ジョンソンはモルモン教徒の依頼で建造していた恒星間宇宙船ノーブー号(無茶苦茶でかい!)をエロスへぶつけて軌道を変えようとするが、エロスは衝突直前に軌道を変えてノーブー号を避ける。この後ノーブー号は不要になるのにフレッド・ジョンソンが勝手に奪い取ってしまう(ひどい!)。
ホールデンたちと、ミラー刑事(すでに解雇された)は、それならばとエロスに爆弾を仕掛けて破壊しようとするが、それも失敗。結局ミラーがジュリーの意識を持ったプロト分子とテレパシーのように交信して説得、地球じゃなく金星へコースを変えてもらう。ジュリーはこの時初めてミラーに会うが、ミラーは既に恋していた。写真だけでそこまで好きになれるのか不思議だが、小説ならこの辺り書きやすいが、映像ではその気持ちを描くのは難しかっただろう。
ちなみにエロスの長軸側の長さは約34キロ、質量6兆トン。恐竜を絶滅させた隕石が直径10キロだったので、もしエロスが地球に衝突すれば地球は壊滅、人類は滅亡するだろう。プロト分子は反重力エンジンのようなものやワームホールゲートまで作るほど賢いのに、衝突による被害には頓着しない。のちにプロト分子は異星人による製造物だと分かるが、この異星人、どんな設計にしたのだろう。結局金星に衝突したエロスは、そこでプロト分子を増幅させてまた何かの構造物を作り始める。
この時国連がエロスを破壊しようと発射したミサイルは無効化されるのだが、一部はフレッド・ジョンソンによってベルタ―勢力に奪い取られる。
シーズン2には火星軍のドレーパー軍曹といういかつい女性兵士が登場するが、このドレーパーがとても魅力的。火星軍もベルタ―同様、地球を脅威と見ていて、地球は他の惑星を隙あらば併合しようとしていて、火星は少ない人的資源で必死にそれに立ち向かうため常に警戒態勢にある。管理国家である火星の兵士は徹底的に地球を脅威と教えられているために、ドレーパーも火星への忠誠心と地球人への嫌悪は強い。結局のところ、プロト分子という脅威の前に、ホールデンらと協力することになるのだが、最初はなかなか心を開かない。女性ながら体は大きくがっちりしていて、地球の重力下でも高い戦闘能力を持つ、暗殺者として無敵のホールデンの部下、エイモスと闘っても勝つほど強い。一時的にホールデンの元、エイモスとドレーパーが同じチームになるが、この時のロシナンテ号はドラマ中最強の戦闘力を持っていた。
もともと、ロシナンテ号のエイモスはただのサイコ野郎だったのが、少しずつ、ロシナンテ号の守護者的な最強の戦士に変わっていく。まあ、エイモスかドレーパーがいれば絶対に負けない、と確信できるようになります。
しかし、このドレーパーがガニメデで出会った敵はプロト分子を人間に感染させた生物兵器で、プレデターとエイリアンを混ぜたような奴だったので、さすがのドレーパー率いる火星軍部隊も全滅、ドレーパーのみが生き残る。ガニメデはこの後農業用の太陽ミラーが落下して基地が全滅、一人の生存者、中国系のプラックスをホールデンたちが助ける。この時の事件で、火星軍と地球との密約のために裏切られたドレーパーは地球に亡命し、図らずも国連の幹部クリスジェン・アヴァサララ国連事務次長補佐を護衛することになる。実は国連内部でも裏で秘密の作戦が進められており、事務次長アーリンライトはプロト分子を兵器化して、ステルス艦ととも新兵器で火星軍を圧倒して戦争に勝利するため、わざと地球と火星間の緊張を高めようと画策していた。いつも和装着物のようなゴージャスな服装のアヴァサララは戦争を回避しようとしていたので、アーリンライトと対立、新兵器開発で密かに協力関係にあるマオ博士(ジュリーの父親)を逮捕しようとして逆に殺されそうになる。それを救助するのがドレーパーなのだ。シーズン3の話だが。
マオ博士の会社プロトジェン社が開発している生物兵器は最終的に子供が被検体として適していると分かり。ガニメデで救出されたプラックスの娘を含む子供たちがさらわれて実験台になる。
シーズン3
シーズン3では、アーリンライトの戦争の陰謀とマオ博士率いる会社のプロト分子兵器開発を阻止するのが最初の話。その後、金星から出発したプロト分子の構造体が天王星付近で巨大なリングを作り出すのが後半。
火星との全面戦争になった国連軍は火星の軌道兵器を破壊するために先制攻撃を仕掛けるが、1つだけ破壊しきれなかった軌道兵器からの核ミサイルが地球に着弾、何百万人もの人が犠牲になる。地球が報復のため火星を核攻撃をするが、その途中でアーリンライトによる火星と地球を戦争させようとした陰謀が明らかになり、国連軍同士での戦闘などをへて、戦争は終結する。ホールデンたちに襲撃されたプロトジェン社の兵器開発基地は、最後のあがきで火星に向けてプロト分子生物兵器を発射するが、フレッド・ジョンソンがこそっと地球から奪っていたミサイルもつかってすべてのプロト分子兵器を破壊した。ガニメデでさらわれた子供たちもほとんどは助けられる。
この時のプロト分子で作った強化人間だが、普通の銃などではなかなか死なないし、真空中で生きていけるが、最新技術の火星軍の脅威になるのかはっきり言って疑問。国連軍の戦艦に1体が忍び込んで全滅してしまうが、たかがこの程度の生物が最終兵器的に効果を発揮するとは思えない。
プロト分子の作ったリングは恒星間航法のためのワームホールゲートで何千もの恒星系との航路を開くことになる。地球や火星やベルタ―達は独自に調査に向かうが、リング内ではプロト分子の時空をゆがめる効果によって、近づく宇宙船は急減速させられる。この時に元ノーブー号、今はベルタ―の組織OPAに奪われてビヒモス号となった船では何千人もの人が急減速によって圧死する。減速によってリングから出られない宇宙船たちはリングを攻撃するが、さらに速度が制限されリングはびくともしない。ホールデンたちはプロト分子の中で意識体となりホールデンの前で幻のように現れるミラーの助言によって、リングは人類を敵対者と見ていることを知り、リングに敵じゃないことを知らせるために全エンジンを停止する。リングはそれによってリング内の宇宙船を解放する。
シーズン4
このシーズンでは、すでにワームホールを使っての植民が開始されている。
ワームホールを積極的に使うかそれとも制限すべきかをめぐって国連内部で対立が発生、辞めた事務総長の跡を継いだアヴァサララと新人候補が選挙で争う。アヴァサララは知り合いのホールデンにワームホールの向こうの植民星を調査しにもらいに行くが、そこではプロト分子の巨大構造物が起動し、植民者たちを襲い始める。この辺りプロト分子の目的などはさっぱり分かりませんが、幻ミラーの手助けでホールデンたちは構造物を停止させる。植民者たちは宇宙船で脱出する。
このシーズンでの争いは、植民星での入植者と地球からの調査隊との対立がメインで、何だかこじんまりとして迫力に欠ける。格好いいドレーパー軍曹も除隊となって犯罪組織に使われるなど、いまいち何やってるのか不明な状態。
なぜか調査隊の体長がいかつい性格で、何かと対立したがる。
調査で来ているのだから、さっさと調べて報告だけすればいいものを、何故か植民者(ガニメデからの亡命者)と対立しまくる。
役者としての演技は十分なので、なんとなく納得してしますが、私がアヴァサララなら絶対こいつは派遣しません。
調査隊との対立の中でもエイモスの無敵さは発揮されていたのに、地下洞窟で何気に撃たれて死にかけるのが玉に瑕です。残念賞を授与します。
調査隊の船が無武装なのにも関わらず、連絡シャトルをロシナンテ号に向けて放つところはハラハラしました。
ベルタ―陣営のナイスなじじい、アシュフォードが殺されるところも悲しかった。3流の悪人役と思っていたのが次第に成長して、最後は泣かせるじいさんになっていました。格好良かったです
シーズン5がファイナルになると思うが、そこへの序章という位置づけかもしれない。とにかくドレーパー軍曹の扱いが最悪なシーズンでした。
しかし、 評価の低いシーズン4ながら、案外、各キャストへの思い入れがあって、それなりに感動したシーズンだったとも言えます。
ベルタ―の過激派が地球を攻撃しようとしていたが、その後の展開が気になります。
ファイナルシーズン
おそらく、このシーズンがラストシーズンになると思います。
リングでの恒星間航法が一般的になっている前提で、プロト分子の創造主との遭遇がテーマになるのではないかと推測していますが、
これだけのリアリティの映像の中で、プロト分子の創造主を描くことが可能でしょうか?
無理でしょう。
ラストにかけて尻すぼみになると思います。
でも、ホールデンやエイモス、ドレーパーやアヴァサララの活躍をメインにすればドラマとしては十分まとまるはず。ぜひ彼らを活躍させてください。
まとめ
こうやって書きまくっても、やっぱり内容は分かりにくい。なぞのプロト分子というのが一番のみそなのに、その不明確さがドラマ全体を分かりにくくしている。
元々プロト分子は小惑星フェリペで発見され、マオ博士と地球の国連軍は兵器として使おうとする。しかし、これはすぐに火星軍も知るところになり、火星軍もプロト分子を手に入れようとする。国連の主戦派はこのプロト分子とステルス艦の技術で火星軍を圧倒できると考え、いろいろと画策する。しかし、結局のところ、プロト分子は大した兵器にはならず、最初に死んだジュリーをはじめ、ミラーやドレーパー軍曹の部下もみんな無駄死にやし、エロスの実験は一体何のためにやったのか全くの不明。最初からワームホール製造者として認識できていれば、もっと具体的な話になったと思う。
ここまで書くと、いいドラマなのか、ダメなのか分からなくなるが、SF好きとして、他では見ることの出来ない内容のドラマであることは確か。宇宙船同士の戦闘でも物理法則を守って戦闘するので、リアリティが格別なのだ。どんなに高度なCGでも迫力の無くなる今のスターウォーズなどとの違いだ。不利な場面でもパイロットの技量だけでは解決できないことがあるのが現実だろう、それを感じ取れるのがこのドラマの良いところ。