【しろぽんの十大小説 3位】夏目漱石 こころ 近代日本の偉大な文豪の小さな宝石

‘究極の完成度で描かれた人間のこころの明暗。日本の近代文学で最も印象的な作品のひとつ。



最初に読んだ漱石の作品で、全部読み返しても一番こころに残っている作品だ。

夏目漱石の小説のテーマには一貫したものがあって、がーっと全作品を続けて読んだりするとそれぞれがもやもやと混ざった感じがして、それぞれの主人公が混じってしまったりする。
私の感じでは、「虞美人草」から「明暗」までどの主人公も同じ役者が演じているような気がしてしまう。
でも、だからといって個々の作品が価値がないのではなく、どれも読んでいて共感でき、ぐーっとのめり込んで一気に読んでしまうような魅力を持っている。日本の近代史の中でも、まだ明るさの残る、文化的な香りと旧来の伝統が混じった社会が背景になり、この時代へ一種の憧れをもつ私にはたまらなく魅力的だ。

ご存知のように「こころ」はちょっと特殊な構成になっており、先生の遺書という手紙により後半のストーリーが語られる。
しかし、特にこの構成に注意する必要はない。読み進めれば自然と手紙によるストーリーに入っていくし、長い手紙苦にならない。完成された必然の形式なのだ。

主人公は、他の作品にも出てきそうな、書生風の若者で、人生と世間、男女にまだ無知である。彼が「先生」と呼ぶ年上のインテリおじさんに出会い、その奥さんに出会う。
その夫婦はどこかミステリアスで、事実、ミステリ風にストーリーは進み、先生の遺書が謎の解決編といっても良い。
先生の謎とは、昔、親友の恋の相手を奪い、その親友を自殺に追い込んだことである。この時奪った女性が今の奥さんなのだ。ああ、こう書くとそこらの小説の内容と変わらないけど、先生の言動に垣間見える謎は読んでいてどきどきするほどの真剣さがあり、先生の手紙を手に取ったときには、主人公と一緒に心臓がどきどきした。今はミステリ小説が氾濫しているけど、こんなに緊張する場面を描ける小説家はいないだろう。

漱石は、この小説を「明治」という時代の終わりを象徴させるように描き、事実、明治天皇に殉死する乃木大将とともに、先生を「明治」という時代に殉死させているといえる。上のストーリーでは単なる一人のおっさんが三角関係のもつれで自殺するだけだが、小説を読んだものには、彼の死が、日本の未来を予見させる不吉なしるしのように感じられるのだ。おそらく、漱石自身、その後の歴史を肌で感じていたのではないだろうか。こころの先生や三部作の主人公に見られる、「危うさ」は日本という未熟な近代国家の危うさでもあったように思える。


本当に日本文学の最高を選ぶと源氏物語や平家物語のほうが上かもしれないが、ここでは、現代一般的な小説の形式での小説として、まず夏目漱石を選んでみた。源氏物語と平家物語も私が好きな作品で、古語原文、現代語訳、マンガまであらえる形式で味わいつくした作品なので、いつか、番外編として感想を書いてみたい。 ‘

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