想定外の非常事態を予想しておくことが本当の安全保障だ 新型コロナ肺炎の流行

新型コロナ肺炎が流行を始めてからわずか5か月ほどだが、

全国で非常事態が宣言され、繁華街からは人が消え、あれほど歓迎されていた外国人観光客は入国を制限されている。

前に、新型コロナ肺炎の記事を書いたのは、まだダイヤモンドプリンセスの乗船者以外の患者がほとんどいなかった時、

2月20日時点 日本の患者数73人の時の記事

だったが、その時と比べ、社会は様変わりしてしまっている。

人々はようやく危機感を持ち始めたように感じる。

戦争世代の両親を持ち、阪神大震災を神戸のど真ん中で体験し、自衛隊で訓練を受け、何度か生きる死ぬの極限環境に追い込まれたことがあると

多少用心深くなって、日頃からサバイバルを考えて行動するようになるが、

そうであっても、今回の事態では予測できないことがあった。

日常品や食料品の品不足がこんなに早く発生するとは思っていなかった

普段から食料や水や紙類はストックするようにしているのでほとんどの物品については困ることはないが、

市場で食料品などが不足するのは、爆発的に流行して、物流が滞ったときになると思っていた。

しかも、今回の新型コロナ肺炎は、有意に高齢者が重症化しやすく、労働人口世代には確率的に影響が少ないので、本来、物流や生産活動には影響を与えにくいはずなのだが、

人々の心理的な要因が品不足を生み出すとは思わなかった。

私のサバイバルの心構えは大震災時の体験に基づくところが多いので、人々が比較的理性的なのが日本人の体質だなと思っていた。

しかし、今回の様子を見ていると、不安になるとなりふり構わず行動する人も多いようだ。

 

安全保障は想定外の危機を予測して備えること

このように、普段から災害や厄災に備えていても、なかなか予想通りにはいかない。

そもそも、想定外の事柄が起きるからこそ非常事態であり、緊急事態なのだから、すべてを予測するのは難しい。

しかしながら、このような非常事態、予期もしない事態に備えること、論理的に言い換えると、「想定しうる最悪の状況への対応」こそが安全保障の根幹なのだ。

そして、これは国家の責務である。

今年は本来ならオリンピックが開催されていた。オリンピックに際して国や警察、自衛隊などはテロなどに備えた準備をしてきたはずであるが、新型コロナ肺炎の流行を前に、それらの準備が役立ったという話は全く聞かない。

ダイヤモンドプリンセス号 日本生まれのクルーズ船

オリンピックは海外から沢山の人が訪れ、一つの場所に沢山の人が集まるイベントであるから、当然、海外から来る脅威や密集した人々が対象になる危険も予知しなければならなかったはずである。警察や海上保安庁、自衛隊はテロの脅威を対象にして多くの訓練を行っていたが、大規模な細菌化学兵器を使ったテロを予測して準備をしていたなら、少なくともダイヤモンドプリンセス号での感染抑制には役立ったはずである。

だが、実際には、ダイヤモンドプリンセス号での感染管理は素人同然の対応で、これまでの訓練、サリン事件や福島原発事故の教訓は全く生かされていなかったことになる。サリン事件にしても、福島原発事故にしても、これらを教訓にしていれば、政府の対応部隊や主要な病院で防護服が不足するなんてことは絶対になかったはずなのだ。

そして、オリンピックを本気で守ろうとするなら、今回のコロナ肺炎の流行による1万人程度の患者への対応は出来なければおかしいのだ。

現在の日本の安全保障には、想像も出来ない危険を予測するなんて観点は全く無いように見える。何か、現在防備不可能な事態を想定することが嫌味なあら捜しのように思われているようだ。安倍首相の国会答弁にもよく出てくるが、証拠がない心配や疑いを一顧だにしない。「政府の対応が心配なら、心配を裏付ける証拠を出せ」というのが現安倍政権の基本方針になっている。

陸上配備型イージスシステム イージスアショア

陸上でのイージス迎撃システム、イージスアショアなどその最たるものだ。イージスアショアとイージス艦とは性能に変わりはない費用もそれほど大きな差はない。そもそも同じシステムだ。イージスアショアの唯一有利な点は、運用に人員が少なくて済むことだが、かたや陸上に固定され、かたや海上を移動できる。軍事の基本として、固定の基地ほど脆弱なものはない。必要な時に破壊される可能性が高いなら何の意味があるだろうか。何しろ、明確で隠れようのない目標だからだ。北朝鮮が日本を攻撃しようとして、その途中にイージスアショアが存在するなら、その迎撃範囲外の目標を狙えば良いだけだ。もしくは大規模な特殊作戦で一時的に無力化するだけでも良いかもしれない。一般の人はどうしても頑丈なコンクリート要塞を頑丈な守りだと思いたがるが、現代の軍事常識から言えば、固定の基地はどれも脆弱だと考えられている。まるで、原発の最後の砦だった非常用電源が一番津波に弱いところに置かれていた福島原発のようだ。

イージス艦ばかり作れば、海上自衛隊が予算も人員も大きくなり、3自衛隊(陸上、海上、航空)のバランスが崩れるのを恐れる自衛隊幹部の進言もあるだろうが、常識的に考えて、東シナ海からペルシャ湾までも移動できて、ミサイルから航空機、敵艦船、潜水艦、特殊工作船などを攻撃出来て、災害に際して支援も出来るイージス艦と、関東地方へ北朝鮮から発射されたミサイルの迎撃しかできないイージスアショアとどちらがいろんな危機に対応できるだろうか。誰にでも明白である。

情報を公開せず、そもそも不都合な事実が明るみに出るのを嫌がるから、情報収集すら行わない。正確な情報に基づいた議論もないから、誰も危機感を持たない。こんな国が日本の安全を守れるはずがないのだ。

 

安全保障は軍事だけではない

 

日本国民が第二次世界大戦で最も苦しんだのは、輸送が途絶えて、食料とエネルギーを失ったことだ。

だから、戦争体験世代は口を酸っぱくして、食料自給率やエネルギーの確保を訴えてきた。

今こそ、それを思い出すべきだろう。

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や食料輸入の自由化など、近年の日本は食料安全保障を全く重視していなかった。

エネルギー政策に関しても、費用が高いとの理由で、再生可能エネルギー源の導入に及び腰だった。

行き当たりばったりの財政政策で日本の基礎体力を奪い。肝心な時に財政出動できなくしている。

いくら軍事力を充実させても、中東からの石油が輸出されなければ日本の産業は立ち行かなくなるし、食料輸入について言えば、飢餓の危険すらありうるのだ。

日本が物資を依存している国は世界中に存在していて、何もかも自給自足するのは到底不可能である。これはイギリスなどのヨーロッパの国々も似たようなもので、それだからこそ、イギリスは食料や原材料を依存している国々関心を持ち、常に情報収集を怠らない。日本もこれに倣い、もっと世界の情勢に関心を持って、日本一国だけでなく、
世界の安定こそが日本の安全につながることを強く認識しておかなければならない。

アフリカの飢饉やエイズの流行に関心を向けていたなら、今回の新型コロナ肺炎の流行への対応に際しても、もっと効果的な対策が取れたかもしれない。

 

現政権の無能ぶりが露呈

安倍首相 もちろんアベノマスク付き

仮にも、安全保障を売りにしている現安倍政権であるが、東日本大震災の時の民主党政権よりもひ弱に見えるのはなぜだろう?

彼ら、安倍政権の面々の場合、

普通の時にやたらと大袈裟に安全保障を口にする。

しかも、すぐに、

きちんと対処している

と言ってしまう。

なおかつ、良く嘘をつくので、そもそも言葉に信用がない。

まるでイソップの童話の

狼が来た少年

である。

危機に対してはきちんと情報を伝え共有することがとても大事なのに、そもそも

現政権には情報を共有する意識がない

この情報共有は必ずしもすべての情報を公開せよと言っているのではないが、

現政権は関係省庁や政党やその他の関係機関とも情報共有を行わないので、危機に際して、協力関係が築けない。

これはほぼ最悪の危機管理モデルである

そういえば、米国CDC(米国疾病予防管理センター)が同じことを言っていたな。

安倍首相は独断専行とリーダーシップを取り違え、個人や各組織の能力を生かしながら、力を結集して目的を達成することに関して、完全に無能であるというしかない。

 

本来あるべき安全保障の姿

安全保障の最も有効な方法は備えること、予防である。

戦争に対しても、災害に対しても、もちろん今回のような疫病に対しても、

あらかじめ準備しておけば、その時になってする対策よりも何十倍も効果があり、リスクも少なくて済む。

戦争においては、戦争して勝つよりも、相手に戦争させない方が良いのと一緒で、

災害や疫病でも、被害にあったり、病気になってからそれを治すよりも、

最初から被害を受けないようにしておく方が良いのだ。

そして、予防するには、

被害や危険を予測するための事前の情報収集が最も大切である。

今回の新型コロナ肺炎の場合、SARSやMARSなどすでに動物由来の呼吸器感染症を経験してきたのだから、

対岸の火事と考えずに対策しておくべきだった。

これだけグローバル化した世界では、どんな危機も他人事では済まないのだ。

そして、予測できない事態に際しても、食料やエネルギーの備蓄などは普遍的に重要であることは間違いないのだから、必ずやっておくべきことだった

 

COVID-19(新型コロナ肺炎)の場合の対策

では、どうすべきだったか?

それは2月の記事に書いてあるが、

2月時点で、どこで止めるかを決めて、

航空機や新幹線による旅客輸送を制限すべきだった。

そして、流行に備える病院を

  • 感染者かどうか不明な場合にかかる病院
  • 発症しているが軽症な場合に隔離して治療する病院
  • 感染症重症者を専門に治療する病院

階層的に設置する。

基本的に全数検査を行い、流行予測と今後のデータ収集を行うことも重要だった。

日本は疫学調査を嫌がる体質があるが、これは疫病対策には絶対必要である。検査体制の不備はSARSなどの流行を日本でもあり得ることと認識していなかった最たる事例だ。

自治体の首長の動きは速かった

今回の流行に関して日本はそれなりに感染は抑制されている。

絶対的に検査数が少ないとしても、死亡数だけを見ても、最悪のシナリオは回避できている。

多くは日本人の国民性や清潔な社会環境が有利に働いたと推測できるが、政治においては、政府よりも自治体の対応の方が効果的だった。

より早く緊急事態宣言を出した北海道や情報発信を積極的に行った大阪府市など、明らかに政府の動きより早かった。

結果的に各自治体の積極的な行動は正解だった。

しかし、新型コロナ肺炎のような、感染力の強い疫病はそもそも世界的な規模で流行していくのだから、各府県だけでの対応には限界がある。

日本は海で外国と隔てられているのだから、軍事面で地形的特性を利用するのと同じく、外国との入り口で防ぐのが最も効果的なのだ。

空港や港を全国規模で管理しているのは政府なのだから、政府こそがそこで防ぐべきだった。

まあ、安倍首相が新型コロナ肺炎の脅威を見誤り、日本国民1億2千万人の命の安全観光客のお金やオリンピックや中国の習主席の来日を秤にかけて躊躇したことは間違いない。彼は日本のふわりとした気分を良くとらえて支持率を維持してきた。今回の事態はそれが完全に裏目に出た。

中国の武漢で感染が広がり始めたとき、その致死率(や感染力)のデータを信用せず、より楽観的にとらえた。

当時の致死率に関しては感染症の専門家でも見誤っていたので、一概に安倍首相を責めるわけではないが、危機管理においてより「楽観的に」考えるなんてあり得ない。
経済やオリンピックへの影響を最小限にしたくて、ギリギリの制限にしたければ、より正確な数字を得るように努力して、確実にこのライン以下だと確証を得て初めて制限を緩めるべきなのだ。当時、政府は武漢への現地調査もせず、中国や武漢の医療体制などに詳しい専門家への助言も聞こうとしていなかった。中国の医療を知る多くの専門家が、「武漢の医療体制が遅れていて死亡率が上がっているなんてあり得ない」と発言していたにも関わらずだ。

正確な情報に基づき判断すれば、どんな人でも良い判断ができる。優秀な戦略家は誰もが情報収集を優先している。その第1歩を間違っているのだから安倍首相が正しい判断ができるはずがなかった。危機管理に責任をもつリーダーとしては失格だ。

そして、このデータを次の選挙に活かせるかどうかは、国民各個人の責任だということは忘れないでおきたい。

 

 

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